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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)4606号 判決 1995年6月05日

甲事件原告

好川洋祐

ほか一名

甲事件被告(乙事件原告)

湯藤義明

両事件被告

池内晟

ほか一名

主文

一  甲事件被告(乙事件原告)及び両事件被告らは連帯して、甲事件原告好川洋祐に対し、金二二一万〇七〇六円及びこれに対する平成五年六月一二日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

二  甲事件被告(乙事件原告)及び両事件被告らは連帯して、甲事件原告好川友子に対し、金二二一万〇七〇七円及びこれに対する平成五年六月一二日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

三  乙事件原告(甲事件被告)の請求及び甲事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は甲事件・乙事件共にこれを一二分し、その三を甲事件原告らの、その一を両事件被告らの、その余を甲事件被告(乙事件原告)の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

以下、甲事件原告好川洋祐を原告洋祐、甲事件原告好川友子を原告友子、合せて原告ら、甲事件被告・乙事件原告を被告湯藤両事件被告池内晟を被告池内、両事件被告株式会社岡三興業を被告会社とする。

第一請求

(甲事件)

一  被告湯藤、被告池内及び被告会社は連帯して、原告洋祐に対し、金九二七万三四九二円及びこれに対する平成五年六月一二日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

二  被告湯藤、被告池内及び被告会社は連帯して、原告友子に対し、金九二七万三四九三円及びこれに対する平成五年六月一二日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

(乙事件)

被告池内及び被告会社は連帯して、被告湯藤に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成五年六月一三日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

第二事案の慨要

自動車専用道路上に停車していた普通貨物自動車に普通乗用自動車が追突し、普通乗用自動車の同乗者二名が死亡した事故について、同乗者の一名の遺族が、他の一名が普通乗用自動車の運行供用者であるとして、その遺族に対し自賠法三条に基づき、普通貨物自動車の運転者に対し七〇九条に基づき、その運行供用者に対し自賠法三条に基づきそれぞれ損害賠償請求した事案(甲事件)と他の一名の遺族が、普通貨物自動車の運転者に対し七〇九条に基づき、その運行供用者に対し自賠法三条に基づきそれぞれ損害賠償を内金請求した事案(乙事件)である。

一  当事者に争いがない事実等及びそれに基づく判断

1  以下の交通事故(本件事故)が発生した(当事者間に争いがない。なお、被告湯藤は事故態様についての自白を撤回したが、それが真実に反する旨の立証はなく、かえつて、甲六、被告池内本人尋問の結果によると認められる。)。

発生日時 平成五年六月一二日午前三時一八分頃

発生場所 大阪市浪速区下寺三丁目府道高速大阪池田線環七・八キロポスト

事故車両(一) 普通乗用自動車(和泉五〇そ六二六二)(信吉車両)

信吉身亮運転、湯藤千佳子(亡千佳子)、好川加奈恵(亡加奈恵)同乗

(二) 普通貨物自動車(泉一一た七八六五)(池内車両)

運転者 被告池内

態様 高速道路の本線上に駐、停車していた池内車両に信吉車両が追突した。

2  被告会社は、池内車両の保有者である(当事者間に争いがない。)。

3  亡千佳子及び亡加奈恵は本件事故によつて、同日死亡した(当事者間に争いがない。)。

4  原告らは亡加奈恵の両親であつて、他に相続人はなく(原告友子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨)、その死亡により、その損害賠償請求権を二分の一づつ相続した。

5  原告らは、自賠責保険金を合計三八〇八万〇八七五円を受け取り(当事者間に争いがない。)、原告洋祐は一九〇四万〇四三八円を、原告友子は一九〇四万〇四三七円をそれぞれの損害に充当した(弁論の全趣旨)。

6  被告湯藤は、亡千佳子の父親であつて、唯一の相続人であるから(丁三の1、2、被告湯藤本人尋問の結果)、その死亡により損害賠償請求権を相続した。

7  被告湯藤は、自賠責保険金三〇一〇万六五八〇円を受け取つた(当事者間に争いがない)。

二  争点

(甲事件)

1 亡千佳子の責任

(一) 原告ら主張

亡千佳子は信吉車両を所有しており、本件事故当時、運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、本件事故に基づく損害を賠償する責任がある。なお、被告湯藤の自白の撤回には異議がある。

(二) 被告湯藤主張

亡千佳子は信吉車両を所有していない。所有しているとした自白は撒回する。

2 被告池内・被告会社の責任・過失相殺

(一) 原告ら主張

被告池内は、訴外車両の運転者と口論するため、駐、停車の禁止された高速道路の本線上に池内車両を駐、停車した過失により、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故に基づく損害を賠償する責任がある。したがつて、保有者である被告会社も、自賠法三条に基づき、同様の責任を負う。

(二) 被告池内及び被告会社の主張

被告池内が駐、停車したのは、先行していた訴外車両が急停車し、運転手が降りてきて、被告池内に話し掛けたことによるものであるから、被告池内に責任はなく、その余の主張は争う。

仮に、被告池内に責任があるとしても、信吉は、免許停止中であり、飲酒運転(血液一ミリリツトル中一・五五ミリグラム)であつて、亡加奈恵は、本件事故前に信吉らと長時間共に過ごしており、信吉が酒酔いであることは当然承知しえたから、大阪市内から羽曳野市まで長距離を運転させることは止めるべきであるのに、止めなかつたものであるから、過失相殺されるべきである。

3 亡加奈恵の損害

(原告ら主張)

逸失利益三一三〇万九五八〇円(269万5500円×0.5×23.231)、慰藉料二二〇〇万円、葬儀費用一二〇万円(原告ら各二分の一負担)、治療費一一万八二八〇円、弁護士費用二〇〇万円(原告ら各二分の一負担)

(乙事件)

1 被告池内・被告会社の責任・過失相殺

(一) 被告湯藤主張

甲事件2原告ら主張と同じ。

信吉車両の所有に関しては、甲事件1被告湯藤主張と同じ。

(二) 被告池内及び被告会社の主張

甲事件2被告池内及び被告会社主張と同じ。

信吉は、免許停止中であり、飲酒運転(血液一ミリリツトル中一・五五ミリグラム)であつて、亡千佳子は、本件事故前に信吉らと長時間共に過ごしており、信吉が酒酔いであることは当然承知しえたから、大阪市内から羽曳野市まで長距離を運転させることは止めるべきであるのに、その所有する信吉車両を信吉の運転に委ね、信吉の著しい前方不注視、ブレーキ操作の遅れによる追突事故を引き起こしたものであるから、信吉の過失は亡千佳子の過失と同視して、少なくとも八割の過失相殺をなすべきである。

2 亡千佳子の損害

(被告湯藤主張)

逸失利益七五八九万二五五四円(別紙のとおり)、本人の慰藉料一五〇〇万円、被告湯藤固有の慰藉料一〇〇〇万円、葬儀代六一万八五一五円、治療費一一万二四二〇円、弁護士費用五〇〇万円

第三争点に対する判断

一  信吉車両の所有関係

被告湯藤の本人尋問中には、信吉車両の所有者は亡千佳子ではないと供述する部分があり、証人森口の証言によると、本件事故当時信吉車両の所有名義人は、森口敬一であつたと認められるものの、被告湯藤の供述は曖昧で、裏付けは右の名義の点のみであると解されるところ、かえつて、甲一一、証人森口の証言によると、森口が平成四年四月信吉車両を亡千佳子に七〇万円で売り渡したものの経済上の理由で名義を書き換えていなかつたと認められるから、信吉車両の所有関係に関する被告湯藤の自白は事実に反するものとは認められず、撤回は許されない。

二  本件事故の態様

甲六、一〇、丙一、二及び三の各1、2、原告友子、被告池内各本人尋問の結果によると、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、南行きの片側二車線の自動車専用道路上(本件道路)である。本件事故現場は、市街地にあり、本件事故当時、照明によつて明るく、前方の見通しはよく、交通量は頻繁であつた(本件事故直後の実況見分時の三分あたりの交通量は六五台であつた。)。本件事故現場附近の道路はアスフアルトで舗装されており、路面は平坦で、本件事故当時乾燥しており、最高速度は時速六〇キロメートルに規制されており、駐、停車禁止とされていた。

亡千佳子、亡加奈恵、信吉は会社の同僚であつて、信吉は、亡千佳子と交際しており、亡加奈恵は、しばしば、信吉との交際について亡千佳子の相談を受けていた。本件事故前日、亡加奈恵は、勤務途中一旦家に帰り、母親に会社が終つた後、亡千佳子の相談を受ける旨述べ、私服を持つて再び会社に向つた。

信吉は、亡加奈恵と亡千佳子を送るため、信吉車両を運転し、本件事故当日午前三時一八分頃、本件事故現場附近追越車線上を進行中に、停止していた池内車両に追突した。なお、本件事故当時、信吉は飲酒しており(血液一ミリリツトル中一・五五ミリグラム)、免許停止中であつた。

被告池内は、池内車両を運転し、本件道路追越車線を走行中、走行車線に進入した時、後方車両(訴外車両)が池内車両にパツシングし、クラクシヨンを鳴らし、池内車両の前に割り込みブレーキをかけたので、池内車両は追越車線に逃げた。訴外車両が、池内車両の前に割り込みブレーキをかけ、池内車両が逃げるということが二、三度繰り返された後、池内車両が本件事故現場附近に来たところ、訴外車両が追越車線を走行中の池内車両の前で急ブレーキをかけて止まつた。そこで、池内車両が停止すると、訴外車両の運転者が、被告池内のところに来て、被告池内の運転が悪い旨言つたため、被告池内は関わり合いになりたくなかつたので、謝つた。そのようなやりとりの間、左側車線を四、五台車両が走行した後、前記の態様で、信吉車両が池内車両に追突した。

三  被告らの責任・過失相殺

1  被告池内・被告会社の原告らに対する責任・過失相殺

前記認定の事実からすると、被告池内は高速道路の本線、それも追越車線上に停止した過失がある。なお、確かに、池内車両が停止したことには、訴外車両の影響があり、その運転者の対応は危険きわまりないが、被告池内としても減速徐行してやりすごす、路肩に停止する、訴外車両が急ブレーキ時に車線変更して進行する等の方法をとれば、本線への駐停車ないしその継続を避けえた可能性があるので、免責とは言えない。

しかし、前記認定の事実、特に、信吉の血中アルコール濃度、亡加奈恵が信吉の同僚であること及び信吉と交際中の亡千佳子と前日一緒にいる予定であつたことからすると、亡加奈恵は亡千佳子と信吉の飲酒中に同席したとまでは認め得ないとしても、少なくとも、信吉が運転開始前に既に相当程度飲酒していたことは知つていたないし容易に知り得たと推認できる。したがつて、相応の過失相殺をすべきところ、前記認定の事故態様等に照らすと、その割合は、二割が相当である。

2  被告湯藤の原告らに対する責任・過失相殺

前記の通り、亡千佳子は、信吉車両の所有者で、本件事故当時、交際していた信吉に運転を任せていたものであるから、運行の用に供していたといえ、自賠法三条に基づき、原告らの損害を賠償する責任がある。

しかし、亡加奈恵も前記のように信吉の飲酒運転を知つていたないし容易に知り得たのであるから、相応の過失相殺をすべきところ、前記認定の事故態様等に照らすと、その割合は、二割が相当である。

3  被告池内・被告会社の被告湯藤に対する責任・過失相殺

前記のとおり、被告池内、被告会社には責任がある。

一方、前記の通り、亡千佳子は、本件事故当時、信吉車両を運行の用に供していたから、信吉を指揮監督すべき立場にあり、信吉の飲酒運転を知つていたないし容易に知り得たのに、信吉に運転を任せ、前記の事故態様から推認できる著しい信吉の前方不注視、ブレーキ操作の遅れの過失を引き起こしたものであるから、相応の過失相殺をすべきところ、その割合は少なくとも五割を下らない。

四  亡加奈恵の損害

1  逸失利益 三一三〇万九五八〇円

甲七、八の1、2、九、一〇、原告友子本人尋問の結果によると、亡加奈恵(昭和四六年五月一二日生)は、本件事故当時二二歳の健康な女子で、単身であり、平成四年一二月一日からアルバイトとして、同五年四月一日から正社員として、不動産と芸能関係の仕事を営む株式会社総合企画新栄に勤務し、事務職に従事し、本件事故当時月給一三万五〇〇〇円を得ていたものであるから、本件事故がなければ、就労可能年齢である六七歳まで稼働し、平成四年賃金センサス産業計企業規模計女子労働者学歴計の年収二六九万五五〇〇円を得る蓋然性が認められ、生活費控除率を五割として、新ホフマン係数によつて中間利息を控除すると、左のとおりとなる。

269万5500円×0.5×23.231=3130万9580円(小数点以下切り捨て、以下同じ)

2  慰謝料 二〇〇〇万円

前記の亡加奈恵の生活状況等一切の事情を考慮すると、右をもつて相当と認める。

3  葬儀関係費用 一二〇万円

弁論の全趣旨によると、右金額を超える支出をしたと認められるところ、本件事故と因果関係のある損害としては右金額が相当である。

4  治療費 一一万八二八〇円

甲三、五の1、2によると認められる。

5  損害小計 原告ら各二六三一万三九三〇円

6  過失相殺後の損害 原告ら各二一〇五万一一四四円

7  控除後の損害 原告洋祐二〇一万〇七〇六円、原告友子二〇一万〇七〇七円

原告洋祐は一九〇四万〇四三八円、原告友子は一九〇四万〇四三七円の支払いを受けたところ、それらを過失相殺後の損害額から控除すると、右のとおりとなる。

8  弁護士費用 原告ら各二〇万円

本訴の経過、認容額等に照らすと、右をもつて相当と認める。

9  損害合計 原告洋祐二二一万〇七〇六円、原告友子二二一万〇七〇七円

五  亡千佳子の損害

1  逸失利益 三一七一万七九四八円

丁三の1、2、四、被告湯藤本人尋問の結果によると、亡千佳子(昭和四六年一〇月一四日生)は、本件事故当時二一歳の健康な女子で、単身で、母親は既に死亡しており、妹二名と同居し、被告湯藤とは別居していたが、交流はあつたところ、前記株式会社総合企画新栄に勤務し、事務職に従事し、本件事故の前年である平成四年には年収二二三万五〇〇〇円を得ていたから、本件事故がなければ、就労可能年齢である六七歳まで稼働し、平均すれば、平成四年賃金センサス産業計企業規模計女子労勤者学歴計の年収二六九万五五〇〇円を得る蓋然性が認められ、生活費控除率を五割として、新ホフマン係数によつて中間利息を控除すると、左のとおりとなる。

269万5500円×0.5×23.534=3171万7948円(小数点以下切り捨て、以下同じ)

2  亡千佳子の慰謝料 一五〇〇万円、被告湯藤固有の慰藉料三〇〇万円

前記の亡千佳子の生活状況等一切の事情を考慮すると、右をもつて相当と認める。

3  葬儀費用 六一万八五一五円

当事者間に争いがない。

4  治療費 一一万二四二〇円

丁五によると認められる。

5  損害小計 五〇四四万八八八三円

6  過失相殺後の損害 二五二二万四四四一円

これは、前記の既払いを超えないので、被告湯藤の請求には理由がない。

六  結語

よつて、原告らの請求は被告湯藤、被告池内及び被告会社に対し連帯して、原告洋祐が二二一万〇七〇六円、原告友子が二二一万〇七〇七円及びそれぞれに対する不法行為の日である平成五年六月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、被告湯藤の請求には理由がない。

(裁判官 水野有子)

別紙

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